2022年になりワールドカップイヤーとなりました。
前回大会優勝国のフランス代表も早々に出場権を獲得。
2大会連続の優勝という偉業を目指します。
そんなフランス代表ですが、誤審のおかげで出場権を獲得した大会がありました。
2010年南アフリカ大会です。
今回は南アフリカワールドカップ欧州予選プレーオフ2nd leg フランス-アイルランドの試合を紹介します。
ワールドカップ予選の戦いぶり
【フランス代表】
当時のフランス代表は予選でかなり苦戦。ストレートインの1位にはなれず、2位となりプレーオフに回る事となります。予選の成績は以下の通り。
国 | 勝ち点 | 試合 | 勝 | 分 | 負 | 得点 | 失点 | 得失点 |
セルビア | 22 | 10 | 7 | 1 | 2 | 22 | 8 | 14 |
フランス | 21 | 10 | 6 | 3 | 1 | 18 | 9 | 9 |
オーストリア | 14 | 10 | 4 | 2 | 4 | 14 | 15 | -1 |
リトアニア | 12 | 10 | 4 | 0 | 6 | 10 | 11 | -1 |
ルーマニア | 12 | 10 | 3 | 3 | 4 | 12 | 18 | -6 |
フェロー諸島 | 4 | 10 | 1 | 1 | 8 | 5 | 20 | -15 |
主力メンバー
GK ウーゴ・ロリス(リヨン)
DF ウィリアム・ギャラス(チェルシー)
パトリス・エブラ(マンチェスターユナイテッド)
MF ヨアン・グルキュフ(ボルドー)
ラサナ・ディアラ(レアルマドリード)
FW ティエリ・アンリ(バルセロナ)
二コラ・アネルカ(チェルシー)
※所属は当時のクラブ
ジダンやマケレレの代表引退の後、世代交代が課題となっていたフランス代表。
アンリ(当時32歳)、ギャラス(当時32歳)といったベテラン勢にロリス(当時23歳)、グルキュフ(当時23歳)など若手を組み込みつつ、チームを構成。
しかし当時監督のレイモンド・ドメネクの謎采配、招集基準の曖昧さ等(後ほど書きます)、チーム内の求心力が大幅に低下。
まとまりが無いチームは取りこぼし(オーストリアにアウェイで3失点の敗戦、ルーマニアに2引き分け)を連発した結果、プレーオフに回る結果となりました。
【アイルランド代表】
当時のアイルランド代表はイタリア人の名将ジョバン・トラパットーニが率いる一撃必殺カウンターのチーム。
イタリア人監督らしく守備構築が得意でユベントス、インテル、バイエルン、ベンフィカ等多くのビッグクラブでタイトルを獲得してきました。
代表チーム自体は2002年日韓W杯はベスト16がピーク。
2004年EURO:予選敗退
2006年ドイツW杯:予選敗退
2008年EURO:予選敗退
近年の低迷もあり、初の英国系以外の監督を連れてきてテコ入れ。かなり気合が入ってました。
そんなチームの予選成績は以下の通り。
国 | 勝ち点 | 試合 | 勝 | 分 | 負 | 得点 | 失点 | 得失点 |
イタリア | 24 | 10 | 7 | 3 | 0 | 18 | 7 | 11 |
アイルランド | 18 | 10 | 4 | 6 | 0 | 12 | 8 | 4 |
ブルガリア | 14 | 10 | 3 | 5 | 2 | 17 | 13 | 4 |
キプロス | 9 | 10 | 2 | 3 | 5 | 14 | 16 | -2 |
モンテネグロ | 9 | 10 | 1 | 6 | 3 | 9 | 14 | -5 |
ジョージア | 3 | 10 | 0 | 3 | 7 | 7 | 19 | -12 |
イタリア1強のグループながらも失点を抑え、泥臭く引き分けで勝ち点を積み上げ。
2位ながら無敗でプレーオフに回りました。
主力メンバー
GK シェイ・ギブン(マンチェスターシティ)
DF ジョン・オシェイ(マンチェスターユナイテッド)
リチャード・ダン(アストンヴィラ)
MF デイミアン・ダフ(フルハム)
グレン・ウィーラン(ストーク)
FW ロビー・キーン(トットナム)
※所属は当時のクラブ
プレミアリーグ所属の実力者を集めたチーム。伝統的にハードワークと諦めないメンタルにストロングポイントがあり、泥臭く体を張ってカウンターで仕留めるスタイルでした。
そんな両者の対決はホーム&アウェイ方式の戦い。
1戦目
アイルランド 0-1 フランス
アイルランドホームの1戦目はアネルカのゴールでフランスの勝利。
大きなアウェイゴールを取ったフランスは有利な状態でホームのスタッド・ド・フランスに戻る事になります。
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フランス史上最低の監督 ドメネク
そもそもタレントを要するフランスがプレーオフに回る事になってしまったのはなぜか?
その原因は監督のドメネクです。
ドメネクがフランス代表の監督就任してからは2010年南アフリカW杯を望むにあたり、
2004年 代表監督就任
2006年 ドイツW杯 準優勝
2008年 EURO グループリーグ敗退
という成績でした。
ドメネクは本当に訳が分からない発言や行動が多く
・選手の選考基準を聞かれると「占星術に従った」と答える。
・ドイツW杯出場の為に代表引退していたジダン、マケレレ、テュラムを復帰させ、世代交代問題は棚上げ(結果的にジダンの力で本大会は準優勝してしまう)
・本職CBが居るにも拘らず、SBのアビダルを突然CB起用。
・EURO2008 イタリアに敗れグループリーグ敗退が決まった直後、今後の去就は?とイヤミのごとくインタビューで聞かれた際に突然恋人にプロポーズ 。
「エステル・ドニ(フランスのアナウンサー)と結婚する。今日がプロポーズの日だ。」
人としてどうなの?という行為が多数。選手やスタッフからの信頼はゼロ。
戦術や練習の中でもどういったサッカーをやっていくのか、ビジョンが全く見えないと選手から不満が出ていました。
そんな異常な事態を数年続けてきたドメネクを切らずに放置したフランスサッカー協会にも大きな問題はありますが…。
チームの雰囲気はいつも最悪。
それが当時のフランス代表でした。
余談ですがドメネクはフランスのリヨン出身。
リヨンはソーセージが有名で、ソシソン・リヨネ(Saucisson Lyonnais)と呼ばれてます(リヨンのソーセージの意味)。
コクがあってうま味も深い、ワインのお供やおかずにどうぞ↓↓
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運命の2nd legと国際問題
1st legはアイルランド0-1フランスでフランス勝利。
アウェイゴールを奪った状態でフランスはホームへ戻ってきました。
しかし試合はうまくいかず、前半33分にアイルランドのロビーキーンのゴールが決まり同点。
その後両者決め手を欠き、延長戦へ突入。
102分にアイルランド陣内でFKを得たフランス。キッカーはマルダ。
時間も少なくなってきた為、放り込み的に相手ゴール前にボールを入れ込む事を選択。
そこで事件は起きます…。
まずは以下動画をご覧ください。
ご覧いただいた通り、しっかりとアンリが手で止めています。
「当たった」より「止めた」と言って良いでしょう。
とっさに反応してしまったのだと思いますが…。
今のルールではVARで確認されサクッとノーゴールですが、当時はそんなものありません。
目の前で見ていたGKのギブンの猛抗議もむなしく、得点は認められてしまい、そのまま試合終了。
ワールドカップ予選のプレーオフの2nd legという超大一番で起こってしまった大誤審に世界中で大きな波紋を呼びます。
当然、試合直後から抗議の動きがヒートアップ。
アイルランド、フランス両陣営でのやり合いが始まります。
アイルランド陣営
◇アイルランドサッカー協会(FAI)
FIFAへ再試合を要求、フランスサッカー連盟(FFF)へ再試合をFIFAに対して求めるよう書簡を送付
◇カウエン首相
FAIの要求を全面的に支持、フランスのサルコジ大統領にもEUサミットで問題提議を約束。
◇トラパットーニ監督
大一番ではより優秀な審判が必要であり、なぜ今回の審判団になったのかFIFAに説明を要求。また、ビデオ判定の導入を提議。
フランス陣営
◆アンリ
手に当たった事を認める。とっさに出た。わざとではないと釈明。アイルランドには申し訳ないと思ってる。再試合が一番フェアだが、自分の立場ではどうすることもできない。
◆フィヨン首相
フランス、アイルランド両政府がFIFAへ干渉すべきではないと主張。
◆サルコジ大統領
遺憾の意をカウエン首相に伝える。フィヨン首相と同じく政治がスポーツに干渉すべきではないと主張。気の毒だが再試合は受け入れられない。
※サルコジ大統領はこの試合をスタンドで観戦。
◆ドメネク監督
我々は謝罪する理由はない。マラドーナの神の手ゴールは賞賛されなぜ我々が非難されるのか?と過熱報道に苦言を呈す。
※お前が言うな!と総スカンを喰らい、さらに炎上した事は言うまでもない
こうした動きの中で犯人捜し的な報道、アンリ含めたフランス側の倫理や道徳感への問題提議など、報道が過熱していきます。
そしてFIFAが出した答えが・・・
☆FIFA
審判の決定が最終的なものとルールに記載してある為、再試合は不可能。
つらい・・・
この判定にアイルランドサポーターはブチギレ!
フランス大使館前で約200人程が集結し抗議を実施。
これを受けFIFAは特別会議を招集。
アイルランド側は「特別枠」としての出場を要請もFIFAの臨時理事会でこれが却下。
最終的に出場の望みは絶たれました。
アイルランドからしたら酒でも飲まなきゃやってられない状態です。
いや、酒飲んでもやってられない。
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惨敗
紆余曲折を経て出場権を獲得したフランス。
しかし、前述のドメネク体制の為チームとしてのまとまりは皆無。
選手が溜めていたストレスがピークを越え、第2戦のメキシコ戦のハーフタイム中にアネルカがドメネク監督へ暴言を吐きます。
即座にアネルカはチームを追放。
それに異論を唱える形で第3戦目の試合を前にした練習を選手がボイコット。
エブラとコーチが口論になった際にドメネクが止めに入るも、「誰のせいでこうなったんだ!」とコーチも胸にかけていたIDパスをピッチに投げ捨てその場を立ち去り職場放棄。
チームは完全に崩壊しました。
結果は1分け2敗、1得点4失点で大会を去る事になりました。
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6年後の暴露
幸運で手にした出場権も良い結果を残せなかったフランス代表が本大会で痛い目を見て一件落着…
したかに思えましたがこの話は続きがあります。
ハンド騒動があった2009年から6年後の2015年6月、FIFAは アイルランドサッカー協会(FAI)に対して500万ドル(約6億2000万円)を支払った事を発表。
FAIのチーフエグゼクティブ(CEO)、ジョン・デレーニーも地元ラジオにてこの事実を暴露。
スキームとしては
FIFA:スタジアム建設代金をFAIへ貸付
返済条件:アイルランドが2014年ブラジルW杯に出場できれば返済。出場権を逃せば返済免除。
特約事項:返済免除になった場合はFIFA側へ2009年のハンド事件の法的措置を取らない。
アイルランドは2014年ブラジルW杯の出場権も逃した為、上記が実行された。
つまり
お金払うから訴えないでね
とアイルランドに和解金を出したと言う事です。建前はスタジアム建設代金。
ただでさえ後味が悪い結果だったのに。
さらにモヤモヤさせるがごとく、結局金で解決するオチになりました。
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終わりに
いかがでしたか?
今回は誤審からの騒動とフランス代表、アイルランド側一連の動きをまとめてみました。
日本であればスポーツイベントに対して政治が介入してくる事はほとんどありません。
しかしヨーロッパの場合は違います。
政治介入の賛否はさておき、フットボールの試合が国際問題にまで発展する現象がヨーロッパにおけるフットボールの地位の高さと人々の生活へ深く根付いている証拠かなと思います。
現在はVARがあるので今回のような事が起こる確率は低くなっています。
テクノロジーの進歩と誤審の歴史がVARの誕生を後押しした事は言うまでもありません。
色々批判もあるVARですが、間違えが起こらないに越したことはありません。
より良い運用へ進化させられるよう、私自身は暖かくVAR制度を見守っていきたいと思います。
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