バスクダービー(スペイン語:Derbi vasco)。
スペインバスク自治州に本拠地を置くアトレティック・クルブとレアル・ソシエダの間で行われるダービーです。
ラ・リーガ好きにはお馴染み、ヨーロッパのフットボールが好きな方は一度は聞いたことがあるかもしれません。
ダービーと聞くと試合もサポーターもバチバチの激しいイメージがほとんどだと思います。
ですがバスクダービーは試合は激しく、サポーターはほんわかムード。
スタジアムへ行くのにソシエダサポーターとアトレティックサポーターが肩を組んでいる姿も見かけるくらいです。
今回はそんな一風変わったダービーの魅力をお伝えします。
ダービーってなんだ⁉
そもそもフットボールにおけるダービーってなんだ?
って話ですが、
ある共通の条件を持つクラブチーム同士の試合を指す言葉
ダービーマッチ – Wikipedia
とあります。
「ある共通の条件」と言う事なので結構幅広いのがダービーの面白さ。
ざっくりまとめてみると2パターンに集約されます。
①ローカルダービー
いわゆる近場のライバル対決です。
行政区画が同じパターンもあれば違うパターンもありますので、「ローカル」という共通の条件になります。
代表的なとこで言うと
◇マンチェスターダービー(マンチェスターユナイテッド、マンチェスターシティ)
◇レヴィアダービー(シャルケ04、ボルシアドルトムント)
◇多摩川クラシコ(FC東京、川崎フロンターレ)
マンチェスターダービーは同じ市内。
レヴィアダービーは同じ州内だけど本拠地の都市は別々(シャルケ04はゲルゼンキルヘン、ボルシア・ドルトムントはドルトムント)。
多摩川クラシコは都道府県も都市も別々だけど、文字通り多摩川をはさんで車で30分ほど。
ご近所付き合いと一緒で近場のチームとは仲が悪くなりがちなのが世の常です。
②ナショナルダービー
人気や実力の面でリーグを代表するクラブ同士の対戦。
代表的なところで言うと
◇エル・クラシコ(レアルマドリード、バルセロナ)
◇デ・クラシケル(アヤックス、フェイエノールト)
◇ル・クラシック(パリサンジェルマン、オリンピックマルセイユ)
まさにリーグを代表する2チームの対戦です。
優勝争いのカギを握る試合になる事が多く、メディアの露出やスタジアムの雰囲気を含めバチバチムード。
今回のバスクダービーはもちろん①ローカルダービーになります。
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レアル・ソシエダとアトレティック・クルブの関係性
ローカルダービーに位置づけされるバスクダービーですが、まずは両クラブの地理的な位置関係を見てみましょう。
レアル・ソシエダのホームスタジアムがレアレ・アレーナ、アトレティック・クルブはサンマメスです。
高速使って1時間強!
距離は100㎞!
ローカル?遠い?
同じ州だからOKです。クラブとサポーター同士がダービーと思えばダービー。
ダービーは気持ち!
真面目な話をすると
ソシエダのあるサンセバスティアンは古くは貴族やスペイン王室が避暑地にしていた場所。スペイン屈指の観光都市でもあります。
一方のアトレティックのあるビルバオは経済・工業都市。特に19世紀の終わりから20世紀初頭は鉄鋼業が栄えスペイン経済を引っ張る都市でした。
そんな対照的な都市という事もあってか、1929年から始まったダービーは必然的に盛り上がりを見せるようになります。

歴史がそうさせる。友好的ほんわかムードのバスクダービー
盛り上がりを見せるのは必然なバスクダービーですが、実際のサポーター同士はほんわかムード。
スタジアム外も和やかで仲間同士でフットボールを楽しむ雰囲気。
スタジアム内もアウェイチームサポーターが一角に追いやられる事無く、ホームチームサポーターに混じって座るのも当たり前。
暴動やトラブルは絶対に起きません。
なぜ?
答えはバスクの歴史にあります。
スペインという国を大雑把に言うと、各地方ごとに分裂していた国が合体してできた国家です。
国の中心は首都マドリードですが、それぞれの地方に権限を多く持たせており自治州制を敷いています。
バスク自治州に限った話では無いですが、スペインの各自治州はマドリード側(中央政府)に弾圧されたり抑制された歴史を持っています。
直近で言うとフランコ政権下(1939年~1975年)の36年間です。
フランコ政権下になる前は政府の分裂や内乱が起きるなど、一体感は皆無な状況。
そうした状況を打破し、国家としてまとまりを持たせたいが為に強引な政策を次々に敢行。
その一部に…
①地方言語の使用禁止
②フラメンコと闘牛の奨励
がありました。
①地方言語の禁止
バスクには「バスク語」という独自の言語があります。
と言うより、スペインは多言語国家。
FCバルセロナのあるカタルーニャ州は「カタルーニャ語」
セルタ・デ・ビーゴのあるガリシア州は「ガリシア語」
これらの言語はすべて自治州内では公用語です。
※方言ではありません。
ちなみに私たちが一般的に言うスペイン語は「カスティーリャ語」です。
フランコ政権下では公用語はカスティーリャ語のみ。
バスク語を公の場で話すことは許されませんでした。

② フラメンコと闘牛の奨励
フランコ政権下では一体感をもたせるイメージ戦略的にフラメンコと闘牛が奨励されました。
日本人がスペインと聞くとフラメンコと闘牛はイメージしやすいものです。
ただフラメンコはアンダルシア(スペイン南部)の文化。
全国的なものではありません。
闘牛もカタルーニャ州に至っては2012年に闘牛が法律で禁止されました。
(動物愛護的な観点からと言う事ですが、歴史的背景も大きく関わってます)
情熱的、フラメンコ、闘牛、さんさんと光る太陽、明るく陽気な人々
これはカスティーリャ語圏のアンダルシアを中心とした南部のイメージです。
バスクはどちらかというと
素朴、質実剛健、涼しい避暑地、経済・工業、美食
イメージ的にはこういう言葉が合う地域なのです。
こうした自分たちの言語の抑制や文化の押し付けといった歴史から「バスク」という一体感が人々に脈々と受け継がれて行きます。
なので、アトレティックとソシエダもライバル以前に「同胞」「仲間」といったメンタルが勝る形となりほんわかムードが実現されるのです。
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ライバル間の移籍もOK!?
一般的にライバルチーム間の移籍はタブーとされています。
スペインであればレアルマドリーとバルセロナ、イタリアで言えばミランとインテル、ドイツでのシャルケ04とドルトムントの様にライバル意識が激しすぎるとそもそも移籍する事が困難です。
ソシエダとアトレティックも、もちろんライバル関係です。
が
「仲間」意識が強いバスク地方においては両クラブ所属経験がある選手は結構います。
ソシエダ、アトレティック両クラブ所属歴がある主な現役選手は以下の通り。
GK アレックス・レミーロ(現ソシエダ)
アトレティックユース出身。2014年にアトレティックのトップチームに昇格。その後国内クラブのレンタル移籍を経て2019年よりソシエダ所属。
DF イニゴ・マルティネス(現アトレティック)
ソシエダB出身。ソシエダでプロデビューし200試合以上出場。2018年にソシエダからダイレクトにアトレティックへ移籍。
DF ユーリ・ベルチチェ(現アトレティック)
育成年代はソシエダB⇒アトレティック⇒トットナムと渡り歩き、トットナムでプロデビュー。2014年から3シーズンはソシエダでプレー。2017年からパリサンジェルマン1シーズンを挟み、2018年からアトレティック所属となる。
DF ミケル・バレンシアガ(現アトレティック)
ソシエダB出身も2008年にアトレティックへ移籍し、アトレティックでトップチームデビュー。ヌマンシア、バジャドリーを経て2013年からアトレティック所属。
MF ダニ・ガルシア(現アトレティック)
ソシエダB出身。国内数クラブを経て2012年からエイバルへ。そこでの活躍が認められ2018年にアトレティックへ移籍。
現役のみ(2022年1月時点)でこれだけの数は驚きです。
2010年代前半までは資金力、実績ともにソシエダが劣勢だった為、
ソシエダ ⇒ 数クラブ移籍 ⇒ アトレティック
という流れが多く見られました。
2010年代後半からはソシエダも力を付け、1部で上位争いをするようになった事で若手流出が大幅に減少。レミーロの様にアトレティック⇒ソシエダの流れも今後増えてくるかもしれません。
ちなみにここまでライバルチーム間での移籍が多い為、移籍した選手に対してのブーイングは少なめです。
例外はイニゴ・マルティネス。
ダイレクトにソシエダからアトレティックへ移籍してしまった為、
「それは流石に無いよ!」
というソシエダサポーターが多いです(気持ちは良く分かる)。
ソシエダホームではイニゴ・マルティネスへのブーイングは多めです。
なお本人はバスク自治州のビスカヤ県オンダロア出身。
両チームの所在地は
アトレティック ⇒ ビスカヤ県
ソシエダ ⇒ ギプスコア県
の為、地元に帰っただけだから問題ないだろ?
と主張してる模様。
ちょっと強引な気もしますが…。
ダービーではイニゴ・マルティネスへのブーイングも注目です。


おわりに
今回はアトレティックとソシエダのダービーについてご紹介してみました。
ライバルチームのサポーターが仲良く隣同士で座り、時には肩を組んで観戦するダービーは世界でも唯一無二。
バスクという地域の成り立ちや歴史を踏まえたうえでバスダービーを見ると、フットボールの偉大さを感じれることができます。
皆さんもバスクダービーを是非ご覧になってください。


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