キックアンドラッシュ(イングランド)
カテナチオ(イタリア)
ティキタカ(スペイン)
ウルチカ(チェコ)
各国にあるサッカースタイル、時折聞く事があると思います。
では日本代表はと言うと…。
あるような無いような。
はっきり答えられる人は殆どいないと思います。
A代表の監督が交代する度にサッカーのスタイルが大きく変わる事が一因であり、近年は「日本らしい」サッカースタイルの確立が必要と言われています。
そもそも勝つ事が最も求められるA代表にわざわざスタイルを決める必要があるのでしょうか?
私は明確にスタイルを決める必要は無いと考えます。
今回は日本代表はどんなサッカーを目指せば良いか?サッカーのスタイルについて考えてみたいと思います。
スタイルに悩まされる
サッカー強豪国や伝統国には大なり小なり国民全員が知っているようなおなじみの戦術があります。
ただそれ故にその戦術から抜け出せず大きな壁にぶつかる事も多いです。
イタリア
カテナチオ
元々は1950〜60年代を中心に使われていた戦術の事です。
ディフェンスラインとキーパーの間にボールを回収する専門のポジション(スイーパー)を置き、守備力を高める戦術でした。
オフサイドを取るという事はあまり考えません。とにかくボールを取り切る。相手を止める事に特化した戦術です。
30代以上の方であればスイーパー経験者もいらっしゃるのではないでしょうか?
現在は堅守速攻の意味やイタリア代表の守備そのものを表す言葉として使われますが、本来は戦術名でした。
ちなみにカテナチオとはイタリア語で「掛けがね」や「閂(かんぬき)」の意味です。
スイーパーの動きが掛けがねの動きと似ている事からこの名前が付けられたと言われ、文字通りカギを掛ける⇒強固な守備のイメージが連想されたそうです。
その後80代年代に入りミランやイタリア代表で監督を務めたアリゴ サッキによってゾーンプレスが体系化され各国、各クラブに広がりました。きっかけはマラドーナを封じるために練った策とも言われています。
そんなゾーンプレスは今や少年サッカーレベルでもお馴染みの戦術となりました。
このように守備戦術においては常に世界の第一線を走り、新しい戦術まで編み出していた国でした。
もちろん結果も残しており、ワールドカップで優勝4回、準優勝2回、3位1回と輝かしい成績を収めました。
世界の共通認識としてイタリアと言えば、強固な守備組織を引き、隙を見て決定力のあるFWで仕留めるイメージではないでしょうか?
ですがそんなイタリアが今勝てません。
FIFAワールドカップでの成績をまとめてみました。
開催年/開催国 | 成績 | 試合数 | 勝 | 分 | 負 | 得点 | 失点 |
1990/イタリア | 3位 | 7 | 6 | 1 | 0 | 10 | 2 |
1994/アメリカ | 準優勝 | 7 | 4 | 2 | 1 | 8 | 5 |
1998/フランス | ベスト8 | 5 | 3 | 2 | 0 | 8 | 3 |
2002/日韓 | ベスト16 | 4 | 1 | 1 | 2 | 5 | 5 |
2006/ドイツ | 優勝 | 7 | 5 | 2 | 0 | 12 | 2 |
2010/南アフリカ | グループリーグ敗退 | 3 | 0 | 2 | 1 | 4 | 5 |
2014/ブラジル | グループリーグ敗退 | 3 | 1 | 0 | 2 | 2 | 3 |
2018/ロシア | 予選敗退(本大会出場なし) |
攻撃は2〜3人で完結。
コンビネーションよりは個の力、一瞬の飛び出しやパスで勝ってきました。
優勝したドイツ大会は圧巻で7試合で12得点2失点。安定した戦いぶりでした。
ただ、ここ10年では他国の守備戦術の精度が上がり、少人数での攻撃が通用せず苦しい結果に…。
日本は2010年と2018年がベスト16ですので、近年のワールドカップの成績だけ見れば日本の方が成績が良いのです。
ちなみにクラブチーム単位でもこの傾向は顕著に表れています。
イタリアのクラブチームにおけるランキング(UEFAカントリーランキング)の推移を載せてみました。
シーズン年 | UEFAカントリーランキング | CL出場枠 |
99-00 | 1位 | 4 |
00-01 | 1位 | 4 |
01-02 | 2位 | 4 |
02-03 | 2位 | 4 |
03-04 | 2位 | 4 |
04-05 | 2位 | 4 |
05-06 | 3位 | 4 |
06-07 | 3位 | 4 |
07-08 | 2位 | 4 |
08-09 | 3位 | 4 |
09-10 | 3位 | 4 |
10-11 | 3位 | 4 |
11-12 | 3位 | 4 |
12-13 | 4位 | 3 |
13-14 | 4位 | 3 |
14-15 | 4位 | 3 |
15-16 | 4位 | 3 |
16-17 | 4位 | 3 |
17-18 | 4位 | 3 |
18-19 | 4位 | 4 |
19-20 | 3位 | 4 |
20-21 | 3位 | 4 |
この順位は各国クラブのチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグでの過去5年間の成績をもとに決められる順位で、クラブにおけるヨーロッパでの戦いの成績が良いチームが多ければ多いほど、ランキングも上がっていきます。
2000年代初頭のセリエAは正にヨーロッパ最強リーグでした。
(ちなみに中田英寿は00-01シーズンにASローマでスクデットを獲得しています)
そこから下降線をたどり、2012年からは4位まで転落、CL出場枠も4⇒3へ減少しました。
近年はレギュレーションの変更もあり、CL出場枠は4となりましたが、リーグ全体としてはなかなか復調の兆しを見いだせずにいます。
アイデンティティになっていた強固な守備と一瞬の隙を突く攻撃がナショナルチームもクラブでも通用しなくなってきた為、イタリア国内ではこんな声が挙がり始めました。
・守備戦術にばかり重きを置いているのが良くない!
・育成システムが機能していない!
・クラブが目先の勝利にこだわり過ぎている!
・そもそもクラブにお金が無い!
など様々です。
一つ言えるのは全員攻撃、全員守備となりつつある(特に後者は顕著)現代サッカーの流れの中でイタリアの戦術は正直厳しい。
そう言わざるを得ない。
そんな訳でイタリアも育成改革に取り組んでます。
・練習時のミニゲームはGKから必ずビルドアップをする。
・攻撃側は前からプレスをかけてボールを奪いに行く。
・アップの際は守備練習からは行わず、ボールを使った攻撃の練習に重きを置く。
その他にも様々な取り組みを行っていますが、詳しいお話はフットボリスタにてご確認下さい。
日本を含めた世界の育成の最前線を国ごとに特集しております。雑誌というジャンルですが、今号は内容的に保存版といっても過言ではないものとなっております。
サッカー好きのみならず、多くの方に読んで頂きたいです。特に育成に関わる方は必見です!
カテナチオ、守備戦術と共に歩んできたからこそ、リアクションからアクションへのサッカーへ転換を図っているのが現在のイタリアと言えます。
大国ドイツの悩みと克服方法
もうひとつ皆様に紹介しておきたい国があります。
ドイツ
どの大会も勝ち続けているイメージのあるドイツですが、自分達のスタイルを貫いた結果敗退し、改革に踏み切るきっかけとなった大会があります。
ユーロ2000のグループリーグ敗退
この当時のドイツ人が考えるドイツらしい戦い方は…
・1人1人が責任感を持ってプレーし、最後まで諦めない。
・攻守において1対1は絶対に負けない。
こんなイメージを持っていました。
なので、ディフェンスは基本的にマンマーク。
1対1どこまでもついっててやんよ!というスタンスでした。
なおサッカーでの1対1の事をドイツ語で「ツバイカンプフ」と言い「2人の闘い」という意味合いで捉えます。
現在のブンデスリーガにおいても、ツバイカンプフのデータは重要視されており、DFは抜かれずにボールを取り切る、攻撃側は抜き切る、点を取る事が1番評価されます。
この為、2000年の時点でもドイツ代表はマンマークを続け、組織的な攻撃を仕掛けてくる各国に対しどうする事もできなかった訳です。
ちなみに日本では94年のJ開幕当初に横浜フリューゲルスの加茂監督がゾーンプレスをして話題になっていました。日本代表でも98年W杯予選ではゾーンプレスを採用。当たり前のようにプレーしてました。
2000年代は私も現役でサッカーをしてましたが、ゾーンで守っていました。
2000年の時点でマンツーマンディフェンスはかなり遅れています。
ユーロでの敗戦をきっかけにドイツは改革を実行。
・トレセン制度の充実
・ライセンス制度の見直し
・ゾーンディフェンスとパスワークを主体としたテクニカルなサッカーの導入
・フォーメーション4-2-3-1の推奨
などなど
トップチームの外国人枠撤廃とドイツ人枠の導入もその一つだと言えるでしょう。
その後の成績は皆様もご存知の通り、2014年にはワールドカップ優勝を果たし、安定した強さを身に付けました。
そんなドイツ代表も2021年現在ではこんな問題を抱えています。
・点を取れるセンターフォワードがいない
・独力でボールを取り切れるディフェンダーが少ない
サッカー協会主体で4-2-3-1を推奨サイドからのパスワークや速いクロスでの崩しが主体になったことで「ザ・センターフォワード」が少なくなっているのです。
また、ゾーン主体の組織的な守備が一般的になった事でディフェンスの1対1の力が弱まってきていると考えるドイツ人は多いようです。
戦術を細かく指定しすぎると後々に弊害が出る事もあるみたいですね。
今後のドイツの育成プランに注目です。
ジャパンズウェイを考える
イタリア、ドイツの例からも分かる通り、成功した戦術にこだわるあまり、時代の流れに取り残されて負けたと思われます。
イタリア、ドイツ並みの成功体験と結果が出ていると、やり方を変えていくのは相当勇気が要ります。ただ、変化し続けないといつかは対策され負ける。これもまた事実です。
これを日本サッカーに置き換えるとどうでしょう?
一般的によく言われるのは・・・
・フィジカルで劣るのでパスワーク主体に責めていくべきだ
・クイックネス(俊敏性)が優れているのでそれを活かす
・運動量で勝負する
だとおもいます。
今までの敗戦の経験を踏まえ導き出した答えのようにも感じますが、本当に正解でしょうか?
本来の目的(A代表であれば特に)は勝つ事です。
極端な話、パスを繋がずとも勝てるならそれでもOKです。
クイックネスが優れていても、勝ちに生かされなければ意味がありません。
フィジカルが強ければ勝てる程単純なスポーツではないはず。
そもそも西洋・東洋・アフリカすべて同じ人間、動物的に人種間の違いは多少あれど日本人のフィジカルが極端に劣る事はありません。
陸上競技の100M走は黒人選手が決勝に残る事が殆どですが、日本人や中国人選手も決勝に残ります。
逆に白人選手を見かける事はありません。
日本サッカーは知らず知らずのうちに思い込みをして、自ら道を閉ざしているのかもしれません。
ここからは個人的な見解ですが、フラットな目線でもう一度考え直すと、ベースとなる能力は以下に集約されると思います。
・認知(視野を広く)
・判断力(状況に応じた適切なプレーの選択)
・攻守の切替の速さ
パス中心とかカウンター中心とかフォーメーションはこうだ!とか方法論をメインにするのはイタリア、ドイツと同じ歴史を繰り返すだけです。
「日本サッカーの日本化」という壮大な目標を掲げて2006年にA代表の監督に就任したオシムさんはこんな事を仰っていました。
重要なのは、いつ、どうしてそのプレーをするのかをよく理解する事だ。
つまりタイミングの問題で、サッカーにおいてはものすごく重要なことだ。
いつ密集から抜け出すか、いつパスを出すのか、いつドリブルをして、いつシュートを打つのか…。テクニックも同じで、ボールコントロールの技術がいかに高くとも、それを行うべきときに行わなければ意味がない。
急いてはいけない~加速する時代の「知性」とは~ 著:イビチャ・オシム
本質をついた言葉だと思います。
サッカーを知ってる、賢い
そういう言葉に集約されていくと思いますが、日本もそういうサッカー選手をたくさん出せるような国になりたいですね。
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